事業報告

令和3年度 現代的課題対応研修

「公民館事業活性化研修会」兼)「人生100年時代での社会教育が果たす役割」

期 日 

令和3年10月18日(月) 13:10〜16:35

参加者 

263名(オンライン参加含む)

趣 旨

 現代的課題を解決し持続可能な社会づくりを目指すために、社会教育を基盤とした「人づくり・つながりづくり・地域づくり」が求められている。その役割の中核となる公民館の機能と地域の防災・減災について学ぶことを通して、公民館事業の活性化を図り社会教育の果たすべき役割について考える。

内容の実際

1.【研修1】講 話「防災教育と公民館 〜地域防災力の構築に向けて〜」

 講 師:神戸学院大学 現代社会学部 社会防災学科 教授 前林 清和 氏

 

講話

災害大国日本という現状認識を共有するため、近年発生した災害をデータと共に振り返った。そして、近い将来ほぼ確実に発生するとされる南海トラフ大地震の被害想定を提示し、防災への心構えや備えの重要性を強調した。
 また、諸外国との比較において日本人は独特の無常観・死生観・倫理観を持っており、災害時には長所・短所として作用することを指摘した。これらを背景に都市化や便利さ、快適さの追求が重なり、“気楽”に生きていることが日本の防災における弱点であると説明し、災害時には共助の妨げになっているという考えを示した。
 その克服のためには、社会教育の推進がカギであるとし、特に公民館に対しては地域の拠点として、防災意識の向上への取組や防災教育の充実を呼びかけた。そして、参考となる具体的な活動事例を紹介した。

2.【研修2】事例発表@「よこしろ防災チャレンジ」 

発表者:北九州市横代校区まちづくり協議会長 小清水  栄  氏
                 防災委員 大久保 大助 氏

 

事例発表(横代校区まちづくり協議会)

 小中学校のPTAが東日本大震災を自分事として捉えたことがきっかけとなり、校区まちづくり協議会と連携して小中学生を対象に取組が始まったことを説明した。
 そして、現在では、市民センターや大学、消防団、障害者地域活動センター、NPO法人などが連携団体に加わるなど、地域を挙げて様々な活動を行うイベントにまで発展してきたことを報告した。また、楽しく学ぶ防災プログラムづくりや小中学生での異年齢交流ができるような仕掛けづくりもしていることを披露し、防災教育としてのねらいが込められていることを説明した。

事例発表A「たていしぼうさいプロジェクト」

発表者:朝倉市立石コミュニティセンター長 川端 惠美子 氏
                  次長 山田  美紀  氏

事例発表(立石コミュニティセンター)

 九州北部豪雨災害によって様々な困難を経験したことがきっかけとなり、行政だけに頼らない共助への取組を始めたことを説明した。
 そして、自主防災組織の問題点として地域行政区の区会長等が数年の任期で交代されることを挙げ、継続して防災の核となる人材を育成していく必要性を示した。この点においては、研修会・講演会を身近な地域で繰り返し行うことにより、防災士を誕生させ、自主防災組織が持続的に機能していくようにしたことを紹介した。
 また、地域住民が自助の心構えと備えができるように行政区ごとの「防災対策ガイド」を作成し、全戸配布して草の根的な啓発活動もしていることも報告した。

3.【研修3】トークセッション「事例地域のメンターに聞く“災害に強いまちづくり”とは」 

ゲストスピーカー:一般社団法人 九州防災パートナーズ 代表理事 藤澤 健児 氏
ゲストスピーカー:一般社団法人 地域安全協会 代表理事 山本  一  氏
ホストスピーカー:神戸学院大学 現代社会学部 社会防災学科 教授 前林 清和 氏

トークセッション

 事例発表の2地域から、それぞれの防災活動に深く関わっているメンターが登壇し、地域と共に行動するようになった経緯やお互いの取組を聞いての感想等を述べ合って交流した。そして、“災害に強いまちづくり”とは何か一言(キーワード)で表明し合い、その言葉に込められた意味について迫った。
 藤澤氏は「祭り」をキーワードとして、地域の祭りが盛んなところほど合意形成が早く、リーダーを中心に一つの方向にまとまり易い傾向にあることを参考にし、「よこしろ防災チャレンジ」というイベントを仕掛けたことを説明した。そして、子どもたちがいずれは高い防災意識を持った保護者や地域住民に育つとの信念を持ち、地域防災力の構築への夢を語った。
 山本氏は「つながる・つたえる」をキーワードとして、防災活動は一部の人が頑張るのではなく地域には様々な人々がいることに着目し、思いや取組を伝えながら広げていく姿勢が必要であることを力説した。山本氏自身も、人材育成も含めて自立的に次の世代にもつながるように地域を支援していることが述べられた。
 ホストの前林氏は「SDGs」をキーワードとして、その理念である「誰一人取り残されない」という考え方が防災にも深く当てはまることを強調し、地域防災力の構築がSDGsの目指す世界観にもつながる価値付けをした。最後のまとめとして、参加者に対して地域における“率先者”としての行動・実践を呼びかけ、今後の活動に対する大きな期待を込めた。

 参加者の声

〜講話〜
  • 怖さだけを示すのではなく、課題やその課題を解決していくための手立てがとてもよく分かりました。様々な立場での今後の取組が見えたと思います。
  • 具体的に危機が迫っていることを実感させていただきました。やっぱり防災事業をやらなくては!!と(最近、くじけそうになっていたのですが)改めて思いました。
  • 地域コミュニティの崩壊は本当に困った状況です。企業との連携は参考になりました。
〜事例発表〜   
  • 小中学生を真ん中に置いて防災訓練、防災教育をすることで大人も動いていく素晴らしい取組だと思いました。
  • 横代地区の住民の皆さんの防災意識の高さに感心しました。ここで育った子どもたちが運営者として帰ってくることは素晴らしいことですね。
  • 地域で自主防災をしてマップを作り、全戸配布をし、素晴らしいと思いました。災害がない時でも自分事のように意識を高め、防災に取組んでいる。我が町もそんな町にしたいです。
  • 現実的で分かりやすい内容でよかった。人材育成に力を入れられて継続的に活動され、防災ガイドデータのアップデートには感心しました。
〜トークセッション〜   
  • 順を追って、それぞれの取組や考え方がよく分かりました。雰囲気もよく、トークセッションの形式がとても素晴らしかったと思いました。
  • 3人ともの共通点は、持続可能性だったと思います。これは本当に難しいと実感しています。しっかり学び、考え、少しでも自分のものにし、次の学びにつなげていきたいと思っています。
  • それぞれの方の災害に強いまちの話や夢など聞くことができ、とても参考になりました。
〜質疑応答〜   
  • Q:朝倉市でも比較的災害の少ないと思われる立石地区で、どのようにして「たていしぼうさいプロジェクト」を展開することができたのか。
  • A:九州北部豪雨災害によって、立石地区内に他地域からの避難仮設住宅が建設された。多くの方々が入居される姿を目の当たりにして、地域住民が自分事のように危機感を抱いたことも大きな要因であったと感じている。(この意識変容は「災害エスノグラフィー」という手法によって形成されることも、山本氏から補足の説明がされた。)
全体をとおして
  • 本日の皆さんの姿を見て、人に何かを届けるにはやはり情熱や思いが必要だと思いました。まぁまぁにならないよう、自分の仕事としっかり向き合おうと思いました。
  • 自分はこのような仕事をさせていただくのが初めてなので、実際に子どもや地域の皆さんと活動しているところを視察したいと思いました。公民館での講座も視察したいです。
  • 私の住んでいる地域も災害が少なく、住民意識が低いです。今回の研修はとても参考になりました。